再びこの国の「プロパガンダ」が注目されるいま、ナチスドイツ、大日本帝国のプロパガンダから学びとることがある

ナチスドイツと大日本帝国のプロパガンダからの考察
堀潤 Jun Hori 2022.12.13
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◆AIやデジタルを活用「ハイブリッド戦争」への備えは?

先日、共同通信が「防衛省、世論工作の研究に着手 AI活用、SNSで誘導」との見出しで、防衛省が「情報戦」への能力獲得に動き始めたと報じた。インフルエンサーが無意識のうちに政府の防衛政策に有利な発信を行うようAIなどを活用して誘っていくという内容で、話題を呼んだが、防衛省は「世論誘導の研究はない」とこれを否定した。

ロシア・ウクライナの戦争では、ハイブリッド戦争と呼ばれる世論誘導を目指した国家のプロパガンダ、情報戦が目の前で繰り広げられている。ロシア政府による言論工作は日本のニュースメディアのコメント欄にさえ忍び寄っていた。

AIをはじめとしたデジタル技術の発達でより複雑性を増したプロパガンダ。国家がその分野における防衛策を深く研究することは必要不可欠だとも感じている。

一方で、情報の受け手である我々こそ自らの守る術を知ることは重要だ。最前線で盾も持たずに無防備に佇んでいるのが今である。

国家はどのようにして、私たちの心の内側に侵入してくるのか?

今から25年前、大学生だった私は「プロパガンダ」に強い関心を持っていた。学部は文学部ドイツ文学科。ナチスドイツはどのようにして国民を洗脳していったのだろうか、と興味を持ち研究にのめり込んでいった。短期間ではあったがドイツに留学し、現地で歴史と空気を学んだ。

卒業論文のテーマは「ナチスドイツと大日本帝国のプロパガンダ」

そこで今回、2回目のtheLetterでは、当時の卒業論文も引用しながら、あらためて「メディアと戦争」について考え、お伝えしていきたいと思う。

ベルリンにあるナチ時代の秘密警察跡地、今は博物館に 当時の写真や映像が歴史を繋ぐ 撮影:堀潤

ベルリンにあるナチ時代の秘密警察跡地、今は博物館に 当時の写真や映像が歴史を繋ぐ 撮影:堀潤

◆アドルフ・ヒトラーが目指した「大衆の国民化」とは?

筆者が最初に本格的に日本のメディア改革の必要性を意識するようになったのは、大学3年から4年生にかけてのことだ。ドイツ文学を専攻していたこともあり、第二次世界大戦期にナチスドイツが強力に押し進めたプロパガンダと、大本営発表を流し続けた大日本帝国下のNHKを卒業論文の研究テーマに定めた。

博物館展示より 

博物館展示より 

 ナチスドイツと同盟関係にあった大日本帝国では、ナチの宣伝担当大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの指示によって、映画、ラジオ、演劇、音楽など様々なメディアを総動員して遂行されていく宣伝戦略を模倣し、愛国心を受け付けるための学校教育と厳しい言論統制や規制を敷く事で大衆の意思を一定の方向に操作していった。究極の狙いは「大衆の国民化」にあったと言われている。ここで言う「国民」とは国家への帰属意識を持った人々を指す。自由に文化を形成してきた大衆をそのまま放っておいても国家を担う「国民」にはなりはしない。ナチスや大日本帝国は、大衆を国民化することが強力で揺るぎない権力と国家を形成する絶対条件だと考えた。第一次世界大戦後、多額の賠償金を背負わされ疲弊したドイツと、明治の富国強兵策以来、欧米列強と伍していくための国づくりを進める日本にとっては、大衆社会からの脱却は急務だったといえる。アドルフ・ヒトラーは1925年に記した自らの著書「我が闘争」で“大衆の国民化”についてこう述べている。

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