安保3文書 なぜもっと語らない?「私たちが読むべき」伝わっていない13の注目箇所

敵基地攻撃能力、反撃能力の保持が閣議決定 中身を知っていますか?
堀潤 Jun Hori 2022.12.17
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日本の安全保障政策の大きな転換期を皆さんがどう見つめているのか、閣議決定の速報を受け、雑踏を眺めながら考えていた。

敵基地攻撃能力、反撃能力の保有は、日本領土が攻撃を受けると確認できれば、相手領土に直接ミサイルを打ち込むことを可能にする。「専守防衛は維持、自衛権の範囲内での対処で合憲だ」と政府は説明する。それは適切な解釈なのかさらに議論を深めたいところだが、急すぎる展開でその時間もなく、閣議で決定された。

安保3文書の一つ「国家安全保障戦略」では『有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく』としている。

発射の兆候をどのように捉え実行するのか。反撃の根拠として立証できる正確な情報をどのように得るのか、詰めたい箇所が多くの残されている。

アフリカ・スーダンにて 日本のODAで支援された学校の椅子 撮影:堀潤

アフリカ・スーダンにて 日本のODAで支援された学校の椅子 撮影:堀潤

▶︎安保3文書を「読む」ことと「知ること」の価値

一方、マスメディアの報道では反撃能力の保持と防衛予算積み増しのための財源論が先行し、増税の是非などについて取り上げられることが多かった。しかし、そもそも政府が示す安全保障戦略、防衛計画の全容をどの程度の人たちに伝えられているだろうか、不満も残る。

そこで、今回のtheLetter 堀潤のニュースレターでは、閣議決定された安保3文書の中身に焦点を当てる。絶対に知っておくべきだからだ。知った上で議論すべきだ。これは民主主義社会の当事者である、我々主権者の責任でもある。でなければ、政府の責任も問えない。

前回のニュースレターで書いた通り、「国民化」を進めたい権力にとって「大衆の無関心」は大変な好都合だ。

今回の安保3文書。できることなら全文を読んだ上で皆で議論すべきだが、合わせて100ページ以上にのぼる内容を忍耐強く読み解く人たちが大勢ではないことはわかっている。なので、堀が注目した具体的文言を10あまり紹介したい。

話は逸れるが、霞ヶ関で聞いたあるエピソードを思い出したので、皆さんに共有しておきたい。

ASEAN各国政府への中国の影響は年々色濃くなる カンボジア首都の開発は中国が担う 撮影:堀潤

ASEAN各国政府への中国の影響は年々色濃くなる カンボジア首都の開発は中国が担う 撮影:堀潤

▶︎私たちが知らされないことが、ある

かつて、原発事故関連の取材で経済産業省の上級官僚に匿名を条件に話を聞いたことがある。2011年3月11日、東日本大震災が発生。その後、東電福島第一原発ではメルトダウンが始まり、避難区域の設定域をどうするのか総理官邸は対応に追われた。その官僚は避難計画の策定に関わった。

シビアな判断だったという。

福島県よりも北にある宮城や岩手への救援や支援物資の輸送手段を確保するため、東北自動車道など高速道を避難区域内に入れるわけにはいかなかったという。どの地域を避難対象にして、どの地域はその区域から外すのか。放射性物質の拡散エリアではなく、東北全体の救援計画が求められた。

例え高濃度の放射性物質の拡散が予想されていたとしても、その地域を避難区域に設定することは避ける必要があった。北上できる道路の確保が優先されたと振り返る。

官僚は「このやりとりは公文書にしますか?」と尋ねた。政府首脳からは「生々しくてこれは公文書にはできない」と返されたが、歴史に残る資料と判断し、その官僚は当時の文書やメモを段ボール箱に入れて省内に保管していたという。

貴重な資料だ。ぜひ見せて欲しいと頼むと「もうここにはない」と表情を曇らせた。省内の引越しの際に部下が誤って破棄してしまったという。公文書のあり方そのものに大きな課題があることを強く実感した瞬間だ。その官僚も「だからこそ国会で公文書管理のあり方を改善するよう議論し制度化してもらいたい」と注文をつけていた。

その取材の最後、自席に座って新聞を広げながら話を聞かせてくれていた上級官僚が最後にこう呟いた。

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  • ▶︎堀が注目した「国家安全保障戦略」の文言と空白域

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